プロローグ
……いつか 還りましょう
懐かしいあの惑星(ほし)へ
美しいあの海へ
いつか きっと……
愛する方と共に。
演奏を終え、竪琴から手を下ろした青年は、はっとした様に目を見開いた。
数え切れないほどの回数を演奏し続けてきたこの旋律は、もう自分の一部と言っていいほど手にも耳にも馴染んでいる。
だから、つい我を忘れ、音楽に没入してしまいそうになる事がある。
今も、そうだったかもしれない。もしも、演奏に感情が籠もり過ぎて、聞き苦しいものになっていたとしたら……。
抜けるように白い面を仄かに赤らめ、彼はそっと、傍らの人に目を遣った。
柔らかな日射しの射す午後の湖畔で、いつものように闇の守護聖は草地に腰を下ろし、漆黒の髪ごと木にもたれかかって目を閉じている。
静かな呼吸が聞こえてくる。
「……お休みになられたのですか」
青年の優しい面に、あたたかな、花のような笑みが現れた。
彼はそのまましばらく、目の前の端正な寝顔に見入っていたが、やがて竪琴を置き、深いため息を洩らした。
「こうしていると……」
ゆっくりと湖面に移りゆくその視線が、次第に遠いものへと変わっていく。
「……まるで、夢を見ていたようです。あなた様と出会ってからの、全ての事が」
呟きとともに、青銀の長い睫毛が伏せられる。
胸によみがえる、様々な出来事。そこには恐ろしい記憶、悲しい思いも決して少なくはなかった。
だが、その全てが夢ではなく現実だったことに、青年──リュミエールは、そっと感謝の祈りを捧げ、そして……
回想へと、意識を沈めていった。