風紋の朝(あした)


1.



 少年はいつも本を手にしていた。

 本が大好きで、それ以上に、読んで知識を得るのが好きだった。

 名をルヴァという。



 少年は、砂漠の惑星にある中都市に住んでいた。曾祖父の代から続く学者の血筋とあって、沢山の本に埋もれる様にして育ってきたが、彼はそれらを全て十歳までに、そして、街の図書館の本も十二歳までには読み尽くしてしまった。

 その神童ぶりは街中に知れ渡り、来年十五歳になればきっと首都か、もしかしたら主星の大学に上がるのではないかと、周囲の人々の期待を集めていた。噂を聞きつけ、才気走った雰囲気を期待して、わざわざルヴァを見に来る者さえいた。しかし、そういった野次馬は皆、拍子抜けして帰るのがおちだった。

 ブルーグリーンの髪もグレーの目もこの惑星ではありふれていたし、顔立ちは特に端正という訳でもなければ、鋭くもない。見た目はごく普通の、というより寧ろ、のんびりした感じさえする、物静かな少年なのだ。そして何よりもルヴァ自身が、自分を特別だとは全く考えておらず、逆に周囲の大人達が自分の事で騒ぐのが、不思議でしかたないという有り様だった。



 だが、七歳下の弟もまた彼を崇拝していて、暇さえあればこんな事を聞いてくる。

「ねえねえ、兄ちゃんはどうして、そんなにたくさん本が読めるの」

「どうしてって……」

読みかけのページにしおりを挟み、少年は弟に優しい微笑を向ける。

「そうだね、きっとそれは、私が本を好きだから……」

「どうして、本が好きなの」

「それは、ほら、本を読むと、沢山の物事を知ることが出来るから、ね」

「どうして、沢山の事を知りたいの」

「……」

 ここでルヴァの微笑に困惑の色が混ざる。この問いにどう答えるべきか、考え始めるとなかなか結論が出ない。いつもその間に弟は待ちくたびれて、外に遊びに行ってしまうのだった。



 弟は身体を使った遊びが得意で、中でも子ども達に一番人気の球技では、年長の者を負かす程の腕前だった。一方、ルヴァはその球技について、ルールはもちろん、それがいつ頃どこの星でどの様に発祥し、いかに広まっていったのかまでを、つぶさに知っていた。

 だが、自分が実際にその球技をしたのはほんの数回だけだという事や、得点など一度も上げた試しがない事にはまるで関心が無く、そういう記憶さえ、どこか頭の隅に押しやられているのだった。


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