黄金の見る夢・8
8.
見つめている間に日は落ち、東の塔も、今は濃い輪郭だけを浮かび上がらせている。
回廊にただずむカインは、自分の真下から前庭に出ていく後ろ姿を認めた。
つい先ほど、空気のように皮肉を撒いていった、荘厳な容貌。
その肉体を得た時、彼はどう感じただろうか。
そして今、感じ取っているだろうか、間違った目的のためにだけ生み出された、この不自然な存在が、あらゆる自然 − 自分たち以外の全て ― の中で起こしている、悲鳴にも似た轢音を。
6年振りに二人と合流したレヴィアスは、宮廷暮らしで身に付いた優雅さの大半を失った代わりに、近づく者をぞっとさせる凄味を備えていた。
そして、二人が報告を終えると、彼はこう告げたのだった。
「俺は、魔導の奥義を身につけた。事を起こし、万一お前たちが命を落とすような事が有っても、必ず後で、復活させてみせる」
「奥義を……さすがはレヴィアス様、おめでとうございます!」
嬉しそうに祝うキーファーの横で、同じように頭を下げながら、カインは思い出していた。
死者復活は、魔導の中でも禁断の奥義として封印され、その代に最も優れた魔導士一人だけが受け継ぐ事を許されている。また、この奥義が常に一人の者にしか伝えられないよう、受け継いだ者も、自らの死の直前まで、決して他人に教えてはならないとされている。
(大魔導士ヴァーンは、まだ寿命の尽きるような年齢ではないはずだ……)
レヴィアスが、どのような方法でこの奥義を手に入れたか……カインは考えるのを、途中で放棄する事にした。
三人で行動するようになると、人材集めも本格的になり、新たに幹部として7人の者が彼らに加わるようになった。
誰もが特定の資質に優れていたが、その殆どが致命的な欠落を持ち、その欠落をレヴィアスで、あるいは革命で埋めようとしていた。
(それは、我々も同じだが……)
前庭に立つ光の守護聖の背を見つめながら、カインはゆっくりと頭を振る。
それに応じるように、キーファーがこちらを振り向いた。
(やはり、真の黄金は、二つ……)
「……感じますか」
喜色を表した美しい面の中で、紅く燃え輝く瞳。
「ああ」
月の昇り始めた宵空の下、前庭の空気の中に、魔導の気が滲み出している。
もう一つの黄金が戻ってくる。
出迎えるために、カインは階段を下り始めた。
エピローグ
キーファーに追いつき、主君を出迎えたカインは、ふと、頭上の月に目を遣った。
レヴィアスとキーファーも、それにつられる様に視線を上げる。
月は、禍々しいほど鮮やかな朱に染まっていた。
まるで、黄金色の光が、血を透して煌めいているように。
三人は、しばし無言でそれに見入っていた。
そう、人は誰も黄金を夢見、黄金を求める。
だが人は、黄金が何を夢見ているか、知っているのだろうか。
FIN
2000.07