DIAMOND FLAME
1. 再 会
幽玄な霧の世界と、緑豊かな山並。太陽の位置次第で、二つの世界を楽しむ事ができるこの断崖を、セイランは気に入っていた。
そう、危険を省みず住み着くほどに。
だがその日、彼は何かの気配を感じて振り返った。
切れの長い海碧色の目が、そのまま大きく見開かれる。馴れない者には相当きつい山道を登り、見覚えのある、
しかし意外な人々がこちらに近づいてくるのが見えた。
それを彼は、ただ黙って見つめていた。
一行がどんな用件でやってきたかにも興味を惹かれたが、それ以上に、聖地で過ごした日々の思い出が、詩人の唇から言葉を奪っていたのだ。
思いがけない宇宙の危機を告げられ、状況が選択の余地を残していないのを悟ると、セイランは同行を承諾した。
「では、守護聖様方を救出しに行きましょう!」
栗色の髪の少女がにこやかに言う。
運命論者でなくとも、それを信じない訳にいかない時がある。例えば、予想外の再会が、避け難くしつらえられてしまった時。
彼の聖地における記憶はいつも、そこで過ごした一つの夜へと集束していた。
X X
暗く湿った坑道の中でオスカーは、見張りの気を引くタイミングを計っていた。誰かが助けに来るのを期待していた訳ではない。
ただ、彼らの注意を反らす事が、確実に脱出に繋がる様に、間合いと頃合を計っていたのだ。
アイスブルーの瞳が一瞬、鋭く輝く。どこか遠くの方で剣の触れ合う音を、彼の耳は確かに捉えていた。
この通路のどこかで、何かが起きている。
「なあ、お前たち……」
まるで世間話でもするかのように、オスカーが話しかける。
見張りが彼の話の虜になるのに、大して時間は掛からなかった。
救出にきたのは、思いがけない顔ぶれだった。新宇宙の女王に王立派遣軍の勇者、王立研究院主任に謎の商人、そして……セイラン。
「またお会いできて嬉しいですよ、オスカー様」
どこまで本気にしていいか分からない物の言い方も、微笑も、初めて会った時に絶世の美女だと思い込んだ容姿も、全てが記憶通りだった。
いや、彼だけではない。助けに来た他の者たちにも、殆ど時の経過が感じられない。恐らく女王陛下は前回の試験以来、時流操作を行っていないのだろう。
夢のように曖昧でありながら、薄れるには生々しすぎる一夜の記憶が、またオスカーの胸を支配し始めていた。