*はじめに*
先にパート1をお読みになる事をお勧めいたします。
禁じられた遊び(パート2)
「"遊び"をしよう!」
ジュリアスにこう声を掛けられて、クラヴィスはびくっと身を震わせた。
「案ずるな、"しりとり"とは別の、手を使う遊びだ。使用人の子ども達が、何やら楽しそうにやっているのを見かけたので、観察して規則や手順を覚えておいたのだ」
「そう……」
クラヴィスは少し安心した様だった。
「では今日、執務時間が終わったら、そなたの部屋で行うことにしよう。詳しいことはその時に説明する」
「……うん」
二人の子どもは微笑んで顔を見合わせた。
そして、夕方。
小さな闇の守護聖の執務室を訪れた小さな光の守護聖は、待ちかねたように"遊び"の説明を始めた。
「これは大きく分けて、二部から構成されているのだ。まず第一部では、"じゃんけん、ぽん"と言いながら、双方が片手を前に振り出す。その時、指は5本全てを広げるか、全て握りしめるか、あるいは二本だけ出して残りを握るかの、何れかの形にしておかなければならない。分かるか」
「……広げるのと、握るのと、二本の。これでいい?」
クラヴィスが三種類の手の形を順に作り、確認するようにジュリアスを見つめた。
「いいぞ!」
ジュリアスは嬉しそうに答える。
どうやらこの"遊び"なら、クラヴィスにもアレルギー反応は起こらない様だ。
「この勝負は、どの形の手を出したかによって、勝敗が決まるのだ。指を二本出す形を出した者は、五本とも広げた者に勝つが、全て握り込んだ者には負ける……つまり、出ている指の数で言うと、0は2に、2は5に、そして5は0に勝つわけだ」
「ええと、これがこれに勝って……」
自分の手を使って、クラヴィスは今聞いた事を確認した。
「うん、分かった」
「……分からぬ!」
「え?」
驚くクラヴィスの前で、ジュリアスは眉間にしわを寄せ、何事か考え込んでいた。
「説明していたら、また思い出してしまった。観察中から疑問に思っていた事なのだが、何度考えても分からぬのだ……5が0に勝つのはよい。だがなぜ、0が2に、2が5に勝つ!?」
思いがけない展開に、クラヴィスは固まってしまう。
「そなたも思わぬか、多いものが少ないものに負けるのはおかしいではないか。仮に、少ないものを求める特殊な闘いであるとしても、今度は5が0に勝つ事の説明が付かなくなる」
「……うん」
先日の頭痛がぶり返したらどうしようかと心配しながら、クラヴィスは相づちをうった。
だが、ひとしきり疑問をぶちまけたら気持ちが収まったのか、ジュリアスはじきに、
「まあよい、観察を重ねていけばいつか真相が分かるかも知れぬ。ともあれ、実践に移すとしようか」
と、表情を元に戻した。
クラヴィスもほっとして頷く。
「では、行うぞ。"じゃんけん、ぽん"!」
ジュリアスはかけ声と共に、五本の指を広げた手を出した。
クラヴィスの出した手は、二本だけ指を出した形をしている。
「そなたの勝ちだ!」
クラヴィスは仄かに赤面していた。
「勝ち……なの?」
「まあ待て、本当の勝負はこれからだ」
ジュリアスは余裕の笑みを見せる。
「第一部で勝ったそなたは、今度は私の顔を人差し指で差し、そしてその人差し指を、上下左右のいずれかの方向に大きく振るのだ。私がそなたの指の動きにつられ、同じ方向に顔を向けたら私の負け、つられずに別方向にむけたら引き分けとなり、また"じゃんけん、ぽん"から始める事になる」
「人差し指で……こう?」
ジュリアスの顔の前で、クラヴィスの指が小さく動く。
「もっと大振りに、それから……そうだ、"あっち向いて、ほい"と言いながら、その"ほい"の時に指を振るようにするのだ。さあ、やってみるがよい!」
ジュリアスの指示に頷いて、クラヴィスが人差し指を出した。
「ええと、"あっち向いて……ほい"!」
「あ」
短い沈黙の後、クラヴィスが小さく叫んだ。
その夜、疲れ切って帰途に就いたクラヴィスはまた熱を出し、75勝150敗75引き分けの成績を不満としたジュリアスは、館の使用人を捕まえては勝負を挑んだのが教師にばれて、"あっち向いてほい"を禁止されてしまった。
二人の間でこの遊びが行われることもまた、二度と無かったのである。
おわり
2000.02
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