ジュリアス様“の”異文化


 初夏を思わせる明るい日差しの日の曜日、ルヴァは、以前からやってみたかった異文化体験パーティを、自宅の裏庭で催す事にした。

 それは、地球という星のニッポンという国に伝わるお茶会の一種、ノダテというものを再現する事によって、彼の地の心に触れてみようではないか、という試みだった。

「この国のお茶会は、大変興味深い、独特の風習ですよねー。精神修養にもつながると言われていて、王侯貴族のみならず、サムライと呼ばれた騎士たちも競って作法を学び、自らを高めようとしたそうですし」

……などと嬉しそうに独り言を言いながら、ルヴァはこの日のために用意した赤い屋外用カーペットを芝生に広げ、湯沸かし器具、陶器の小さなボウル、その他細々した道具を一人で配置し始めた。

 こういった事は彼の楽しみの一つなので、あえて使用人も手を出そうとはしない。

 ところで、彼の裏庭に面する道は、何故か守護聖がよく通る。それを思い出したルヴァは、通りかかった人が誰でも入れる自由参加パーティにしようと考え、途中から加わる者のために、簡単なマナーと注意事項を書いた立札を、カーペットのすぐ隣に立てた。

 折しも、守護聖首座にして光の守護聖ジュリアスが、道の向こうからやってくる。

「あー、ジュリアス、ちょっと寄って行きませんかー」

 ルヴァの呼びかけに振り向いたジュリアスは、見慣れない道具類に興味をそそられながら、異文化体験パーティの説明と誘いを受けた。

「なるほど、茶会が精神修養になるとは、確かに珍しい。私も参加させて貰おう」
重々しく頷くと、ジュリアスは開いた扉から庭へ入って来た。

 その時、ルヴァがいきなり頓狂な声を上げた。

「ああ、どうしよう……お茶会にはなくてはならない、ニッポンのお菓子を用意しておくのを、すっかり忘れていました!今から、お店に買いに行かないと」
「それならば、私がここで留守居していよう。急いで買って来るのだな」
「感謝しますよ、ジュリアス。では、この立札に簡単な作法を書いておきましたから、目を通しながら待っていて下さいねー」

 本人としては全速力の速さで遠ざかっていくルヴァを見送ると、ジュリアスは徐に立札に目を向けた。




 それから少し後……

 「ジュリアス様、こちらでしたか」

と、庭の扉から入ってきたのは、炎の守護聖オスカー。そこが他人(ルヴァ)の屋敷だという事に躊躇する様子もなく上官に歩み寄ろうとした彼は、しかし、その場に固まってしまった。

 「これは……一体」
「珍しい風習だろう、地面に敷いた布の上に、足を重ねて座るのだ。ルヴァが我々に、異文化の茶会を体験させてくれると言うのでな」
「……我々?」
「無論、そなたも参加するのだぞ。本場では、騎士の嗜みと言われているそうだからな」

オスカーの背を、冷たいものが滑り落ちて行った。




 次に例の道を通りかかったのは、ランディである。

 生垣の隙間から見えかくれする赤いカーペットが気になった少年は、扉が開いているのにも気付かずに、垂直跳びで裏庭を覗こうとした。

 カーペットに座っているオスカーと、もろに目が合った。

「……嘘だろ?」

 自分の見た光景が信じられず、彼は瞼を擦ると、もう一回跳んでみた。

 今度は、ジュリアスと目が合ってしまった。

「何を跳ねているのだ、ランディ。いいから入って来い」
「うっ……」

 緊張に強ばった足を無理に動かしながら、少年は二人の前にやって来た。

「ルヴァが、異文化を学ぶための茶会を開くのだ。今は菓子を買いに行っているが……そなたも加わるがよい、後学になるぞ」
「あの、でもっ……」

 年長者の慈愛の篭もった眼差しに戸惑いながら、それでもランディは必死に何か言おうとしている。

 その耳に口を寄せ、オスカーが何事か囁いた。

「えっ」

 ランディの目が見開かれ、それから諦めた様に伏せられる。

「オスカー。そなた、何を言ったのだ」
「あ……いや、大した事じゃありませんよ」

 虚ろな表情で二人に倣おうとするランディから視線を逸らしながら、オスカーが答えた。




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