黄金の見る夢・7−1
7.


 カインとキーファーは、主星と同じ星系の一惑星に宿を取っていた。

 そこで最近発見された鉱山について、調査する必要が出てきたのだ。

「気を付けて下さいね。主星に近づくほど、私たちを知る者が現れる可能性が高くなる。それが宮廷に通じた者ならば、即座に追っ手が差し向けられますよ」

「分かっている」

カインはそう答えると、出かけるべく立ち上がろうとした。

 (……体が重い)

 こうして二人で宇宙を旅するようになって、もう何年にもなる。溜まった疲れが、今、出ているのだろうか……

「どうしました?」

「いや、何も……」

 体を支えようと、卓に伸ばした腕が、風の中の枝のように震えている。

「そう言えば、カイン、隣街で疫病が発生したそうですよ。その内、街道が封鎖されるかもしれませんが……」

「キーファー」

もう一方の手で口を押さえ、カインは絞り出すような声で言った。

「私から……離れろ」

「まだ話は終わっていませんよ」

 暗金色に縁取られた美しい貌が、視界の中で輪郭を失っていく。

「その病は、20年ほど前に都で流行したものと同じなんです。当時私も感染し、生死の境を彷徨ったそうですが、お陰で免疫がついて……おや、カイン?顔色が優れませんね」

 鋼色の瞳が閉じられる。

 それから後の事を、カインは知らない。




 見覚えもない、灰色の壁の中。

『こんな重病人を置いて、お連れさんはどこに行ったのかね、まったく』

 (灰色……?)

『ああ、私は免疫があるから、臨時でこの病院に雇われたのさ。でも、医者が足りないのに、雑役夫を増やしたって、病気は治りゃしないやね』

 (レヴィアス様が仰っていた、灰色の塔……)

『前払金を使い切る前にお連れさんが戻ってこないと、あんた、放り出されてしまうよ』

 (……皇帝の魔導士!?)

『な、どうしたんだい、急に呻き出して……誰か、ちょっと来てくれ、誰か!』




 深く熱い泥の中に、横たわり沈んでいる。

 動こうとするたびにそれは、凶暴な炎を発して襲いかかる。

 吸う息も、喉が爛れそうに熱い。

 周囲を満たすのは、燃え輝く、朱を帯びた黄金色。

(……そうか、黄金が……熔けて、この体を、焼いているのか……)

 熱に浮かされて半開きになった鋼色の瞳に、ほんの少しだけ、安らかな表情が浮かんだ。




 カインは突然、自分の上に、暗くひんやりした空間があるのを感じた。

 半ば混濁した意識のまま、彼は、落ち着いた低い声を耳にしていた。

「……間もなく意識が戻りましょうが、少なくとも10日間は絶対に、安静にしておかねばなりませんぞ。起きあがっただけで発作が起き、命を落としかねませんからな」

「ああ」

 聞き覚えのある声が、それに答えている。

 「……しかし、またこうして、坊っちゃまのお役に立てるとは思いませんでしたな。取りあえず戻りましたら、ご両親様だけには、ご無事をお伝えしておきましょう」

「……できないだろうね、それは」

「え……今、何と?」

 何かの衝撃が、カインのすぐ近くで発生したようだった。

 そして、その低い声は、二度と発される事が無かった。

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